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会長挨拶

全国精神保健福祉センター長会会長 辻本哲士

 平成29年7月から全国精神保健福祉センター長会の会長に就任いたしました、滋賀県立精神保健福祉センターの辻本哲士です。就任にあたり挨拶を述べさせていただきます。
 精神保健福祉センターは、精神保健福祉法の第6条で規定される精神保健福祉の総合技術センターで、精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進を図るために設置されています。平成29年4月現在、47都道府県(都は3か所)と20の政令指定都市に必置され、全国に69か所あります。精神保健福祉センターは、昭和40年の精神衛生法改正で地域精神保健の第一線機関に保健所が位置付けられた際に、保健所の精神保健業務をバックアップする専門機関として、都道府県に設置できるようになったもので、当時は「精神衛生センター」という名称でした。その後、精神衛生法の改正があり、人権擁護が強化された「精神保健法」への改正(昭和62年)では「精神保健センター」に、精神障害者福祉が盛り込まれた「精神保健福祉法」への改正(平成7年)では「精神保健福祉センター」と改められました。次いで、平成11年改正(平成14年度施行)で、都道府県・政令指定都市に必置となり、自治体での呼称や名称には自由性が認められ、「こころのセンター」「こころの健康増進センター」など多様な名称になっています。
 メンタルヘルス対策は、医療(診断や薬物療法、精神療法・カウンセリングなどの治療)と保健福祉(人の関わりで健康をたもち、障害をおぎなう)の両者が必要で、連動しながら推進されます。全ての精神保健福祉センターが、精神保健福祉に係わる知識の普及啓発、研究調査活動、関係機関への技術支援、教育研修などの技術センターとしての事業を行い、医療だけでは対応の難しいメンタルヘルスの課題に、保健福祉の力を活用して総合的に取り組んでいます。それに加えて、各自治体の精神障害者保健福祉手帳の判定、自立支援医療(精神通院医療)の判定、さらには精神医療審査会事務など、精神障害者の福祉や人権擁護に関する法定業務を担っております。精神保健福祉センターの規模は自治体によっていろいろですが、どの地域でも精神保健福祉の技術的中核機関の役割を果たしています。
このようなメンタルヘルス対策事業を適切かつ効果的に推進するために、全国の精神保健福祉センターの所長が全国精神保健福祉センター長会を構成し、ネットワークを作って、日常的に連絡協議を重ねています。この会は豊富な経験や様々な役割をもつ医師・専門職からなり、多様な意見が出せることが強みです。  全国精神保健福祉センター長会の現在の活動は、概ね次の4本の柱になっています。
 第一は、精神保健福祉の業務を適切かつ効果的に推進するための情報交換による経験と知恵の共有です。災害時のこころのケア活動をどう進めていくか、自殺対策や依存症対策、長期在院患者の地域移行をどう展開していくか、ひきこもりや発達障害等の児童・青年期問題で保育や教育、労働などの関係機関連携をどう構築するか、身体科医療だけでは対処困難となりつつある高齢者の問題や高次脳機能障害の課題にどう対応するか、精神障害者保健福祉手帳判定の難しい事例をどう考えるか、精神医療審査会事務で人権擁護の観点から適切かつ妥当な判断は何か等々を、互いの経験を交流させ、情報交換を行い、各地域での実務に反映させています。
 第二には、調査研究と相互研修です。精神保健福祉分野の技術センターとして、専門的な視点から共同の調査研究を行ったり、全国精神保健福祉センター研究協議会やブロック毎に開催される研究協議会の研究発表で学び合ったりして、各自治体での事業企画等に還元しています。
 第三には、日本の精神保健福祉のあり方に関する意見交換・意見集約・意見具申です。精神保健福祉センターは行政の一機関ですので自ずと限界はありますが、地域において公衆衛生的視点をもって精神保健福祉を担っている唯一の専門機関です。このため精神保健福祉の施策等がよりよく推進されるように意見を求められることも多く、直近では精神保健福祉法改正、措置入院患者の退院後における地域包括支援のあり方、アルコール健康障害や薬物やギャンブル等の依存症対策などに、会としての見解をお伝えしています。
 第四には、連帯と協同です。全国精神保健福祉センター長会議や全国精神保健福祉センター研究協議会・ブロック毎の研究協議会、さらには会員のメーリングリストを通して緊密に交流・親睦を重ねております。
 以上、全国精神保健福祉センター長会の活動の概要をご紹介してきましたが、どの地域の精神保健福祉センターも、マンパワー不足に悩まされながら、社会構造の複雑化、多様化の中で、様々な精神保健福祉分野からの要請の増加に対応しています。メンタルヘルスの不調は医学的要因だけでなく、社会的要因が大きく、生活困窮、就労、高齢・介護、教育、住居その他、様々のストレスが誘引となって精神的不調がおこり、誰にも相談できずに孤立して状態悪化しがちです。孤立から精神的不調を深めるというパターンは自殺、依存症、ひきこもり、災害時の心的外傷など、精神障害全般に認められます。誰かと相談でき孤立せずにすむ体制作りには精神科医療だけでなく、様々な地域の関係機関が連携・協力して、継続して支援していくことが重要になります。このように地域全体で精神的不調のある人を支えていく仕組みづくりについては、国における「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」でも、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」が報告されました。これは、現在進められている「我が事・丸ごと」の地域づくり、共生社会の実現にも関連します。こうした地域の仕組みづくりを、広域に専門性をもってバックアップする行政機関として、精神保健福祉センターには今後の重要な役割があると考えます。施策に直結する多様な精神保健福祉活動において、これまでも、そして将来に向け新たな役割を担っていく精神保健福祉センターを、引き続き宜しくお願いします。